連絡が取れない相続人がいる場合

連絡が取れない相続人がいても、その人を除いて遺産分割協議を進めることは原則としてできません。まず住所や生存状況を調べ、所在不明の場合は不在者財産管理人の選任を検討します。調査や選任には時間がかかるため、相続の期限と並行して準備しましょう。

目次

この記事で分かること

  • 返信がない場合と所在不明の場合の違い
  • 住所を調べる資料と進め方
  • 不在者財産管理人の役割と裁判所の許可
  • 費用と10年ルール・登記期限

不在者財産管理人とは

不在者財産管理人とは、従来の住所などを去って容易に戻る見込みがない人の財産を管理するため、家庭裁判所が選任する人です。

どのような場合に選任を検討するか

例えば、戸籍などで相続人と分かっているものの、住所を調べても居場所が判明せず、財産を管理する人もいない場合です。不在者本人の権利を守りながら、遺産分割などを進めるための制度です(民法25条)。

住所が判明していて返事をしない人や、海外に住んでいるだけの人について、当然に利用できる制度ではありません。判断能力が低下している場合も、成年後見という別の支援制度が必要か検討します。

具体的な手続・方法

  1. 戸籍で相続関係を確認する
    亡くなった方と相続人の戸籍を集めます。連絡が取れない人が既に亡くなっている場合は、その死亡時期に応じて誰が協議に参加するかを確認し直します。
  2. 住所の履歴と連絡状況を調べる
    戸籍の附票という住所履歴が記載された書類や、住民票などの請求を検討します。取得できる範囲は、請求者と相手の関係、利用目的などによります。返送された郵便や連絡記録も保管しましょう。
  3. 家庭裁判所に管理人の選任を申し立てる
    所在が分からず要件を満たす場合は、他の相続人などの利害関係人が、不在者の従来の住所地または居所地の家庭裁判所に申し立てます。相続関係、財産、調査経過を示す資料を準備します。
  4. 管理人と分割案を検討する
    管理人は、残りの相続人の希望を実現するための代理人ではありません。不在者の利益を守る立場から、財産の評価や取り分を確認します。候補者を希望しても、裁判所が別の専門家を選任する場合があります。
  5. 裁判所の許可を得て協議する
    管理人が不在者に代わって遺産分割協議をするには、通常の管理権限を超える行為を認める「権限外行為許可」が必要です。管理人が選任されたことだけで協議できるわけではありません(民法28条・103条)。

不在者の取り分を安易にゼロとする案などは、許可されるとは限りません。不動産の評価、調整金の支払い、取得後の財産管理まで含め、無理のない案を用意しましょう。

期限と注意する期間

相続開始からの10年ルール

2023年4月1日施行の民法904条の3により、相続開始時、つまり亡くなった時から10年を経過した後の遺産分割では、原則として特別受益(一定の生前贈与など)や寄与分(財産の維持・増加への特別な貢献)を主張して取り分を調整できなくなります。法定相続分(法律で定める取得割合)、または遺言で指定された相続分が原則の基準です。全員の合意があれば、これらを考慮した分割も可能です。

合意できない場合、これらを反映した分割を求める利益を確保するには、期限までに家庭裁判所へ遺産分割調停・審判を申し立てる必要があります。協議の開始や内容証明郵便の送付だけでは、この期限への対応になりません(民法904条の3第1号)。やむを得ない事由による例外の適用には、条件の確認が必要です(同条第2号)。

施行前に始まった相続にも適用されます。ただし申立期限は、相続開始時から10年を経過する時と、施行日である2023年4月1日から5年の猶予期間が満了する2028年3月31日の、遅い方まで猶予されます。長年分割していない相続では、2028年3月31日が重要な申立期限となるケースがあります(令和3年法律第24号附則3条)。

管理人の選任申立てだけでは、10年ルールに必要な遺産分割の請求をしたことにはなりません。期限が近いときは、調査・選任と遺産分割調停・審判の申立てをどう進めるか、速やかに確認してください。

不動産がある場合の登記期限

相続登記は、不動産の名義を相続人へ変更する登記です。2024年4月1日から義務化され、自己のために相続が始まったことと、不動産の所有権取得を知った日から3年以内に申請します。正当な理由なく怠ると、10万円以下の過料という金銭的な制裁の対象です(不動産登記法76条の2第1項・164条1項)。

施行前の相続も対象です。施行前から取得を知っていた場合は、2024年4月1日から3年以内、つまり2027年3月31日までに申請します。施行後に取得を知った場合は、その日から3年以内です(令和3年法律第24号附則5条6項)。

協議が難航する場合は、2024年4月1日新設の相続人申告登記を期限内に申し出る方法があります。自分が相続人であることを申し出る暫定的な手段で、最終的な権利移転や持分割合を示すものではありません。その後、分割で不動産を取得した場合は、原則として分割成立日から3年以内に登記します(不動産登記法76条の3第1・2・4項)。

費用の目安

不在者財産管理人の選任申立手数料は、不在者1人につき800円です。権限外行為許可の申立てにも800円の手数料がかかり、郵便料や戸籍取得費用などが別途必要です。

裁判所から、管理人の報酬や管理費用に備える予納金、つまり事前に納める費用を求められる場合があります。金額は財産や管理内容によって異なるため、申立先に確認します。遺産分割後も管理業務が続く場合があります。

よくある質問

Q.残りの相続人だけで署名してもよいですか?

A.参加すべき相続人を除いた協議は、原則として無効です。本人の家族が、代理権もなく代わりに署名することもできません。

Q.生存が分からないときは失踪宣告を使いますか?

A.失踪宣告は、一定の要件の下で法律上死亡したものと扱う制度です(民法30条・31条)。単に連絡が取れないという理由だけで利用できるものではなく、不在者財産管理人との使い分けを確認する必要があります。

Q.後から本人と連絡が取れたらどうなりますか?

A.速やかに管理人・家庭裁判所へ伝え、本人による対応や管理終了の手続きを確認します。管理人が必要な許可を得て適法に行った協議が、本人の帰来だけで当然に無効になるわけではありません。

まとめ

所在不明と、住所が分かっていて返信がない場合を区別します。
戸籍や住所の資料で調査し、必要なら管理人の選任を検討します。
管理人による遺産分割協議には、裁判所の許可が必要です。
管理人の選任手続きと、遺産分割の申立期限は別に管理しましょう。

参考:裁判所:不在者財産管理人選任裁判所:不在者財産管理人の権限外行為許可e-Gov:民法参議院:令和3年法律第24号(経過措置)法務省:相続登記の申請義務化

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