話合いに応じない相続人がいても、その人を除いて遺産分割協議を成立させることはできません。まずは手紙の書き方や資料の示し方など、連絡の方法を見直しましょう。それでも応じてもらえない場合は、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てます。調停でもまとまらなければ、審判で家庭裁判所が分け方を判断します。
相手の居場所そのものが分からない場合は、不在者財産管理人という別の手続きになります。
この記事で分かること
- 「話合いに応じない」場合と「所在不明」の場合の違い。
- 返事をもらうための連絡の工夫と注意点。
- 遺産分割調停・審判で手続きを進める方法。
- 待っている間にできることと、注意したい期限。
「相続人が話合いに応じない」とはどのような状態か
この記事でいう「話合いに応じない」とは、住所や連絡先は分かっているのに、返事がない、または協議を拒んでいる状態です。遺産分割協議は相続人全員の合意で成立するため(民法907条1項)、一人でも応じなければまとまりません。
ただし、協議が調わないときや協議ができないときは、各相続人が家庭裁判所に遺産の分割を請求できます(民法907条2項)。応じない相続人がいる場合の主な解決手段は、この家庭裁判所の手続きです。
一方、住所を調べても居場所が分からない場合は「所在不明」の問題です。家庭裁判所で不在者財産管理人を選任してもらい、協議には別に家庭裁判所の許可が必要です(民法25条・28条)。詳しくは連絡が取れない相続人がいる場合の手続きをご覧ください。
返事をもらうための連絡の工夫と、調停を考える目安
- 丁寧な手紙を送る:相続の経緯、相続人の範囲、財産の一覧、分け方の案、回答の期限を分かりやすく書きます。
- 資料を同封する:戸籍や財産資料の写しを付け、判断の材料を示します。
- 連絡する人を変える:他の親族や弁護士など、第三者からの連絡なら返事が来ることもあります。
- 相手の事情に配慮する:仕事や体調、過去のわだかまりなど、応じられない理由があることも考えます。
自宅への押しかけや強い言葉は、関係を悪化させるおそれがあるため避けましょう。送った手紙の写しや発送日など、やり取りの記録は残しておきます。
内容証明郵便は、いつ、どのような内容の文書を誰から誰に出したかを日本郵便が証明する制度です。送っただけで遺産分割が進むわけではなく、後で説明する10年ルールの期限を守る手段にもなりません。
回答期限を過ぎても返事がない、はっきり拒否された、といった場合は、調停を検討する目安になります。
調停の申立てに向けて準備する資料
- 申立書と相手方の人数分の写し、事情説明書、進行に関する照会回答書:裁判所の書式を使います。
- 被相続人の出生から死亡までの戸籍と、相続人全員の戸籍:相続人の範囲を示します。
- 相続人全員の住民票または戸籍附票:相手方の今の住所を示します。
- 登記事項証明書、固定資産評価証明書、通帳の写しや残高証明書など:遺産の内容と評価を示します。
戸籍などは、法定相続情報一覧図の写しで代えられる場合があるため、申立先の家庭裁判所に確認しましょう。これまでに送った手紙の写しも、経緯を説明する際に役立ちます。
応じない相続人がいるときの手続きの進め方
- 手紙で協議を申し入れる:戸籍附票などで今の住所を確かめ、回答期限を示して連絡します。
- 第三者から連絡する:返事がなければ弁護士に相談し、代理人から連絡してもらう方法もあります。
- 遺産分割調停を申し立てる:相手方のうち1人の住所地の家庭裁判所か、当事者が合意で定めた家庭裁判所に申し立てます(家事事件手続法245条1項)。費用は収入印紙1,200円(被相続人1人につき)と郵便切手です(2026年9月時点)。
- 調停で話し合う:家庭裁判所から相手方にも呼出しがあり、調停委員を交えて話し合います。合意して調書に記載されると、確定した審判と同じ効力を持ちます(同法268条1項)。
- 審判で結論を出す:相手方の欠席が続くなどで調停が不成立になると、審判に移り、家庭裁判所が分け方を判断します。新たな申立ては不要です(同法272条4項)。
家庭裁判所が相当と認めるときは、「調停に代わる審判」が出されることもあります(家事事件手続法284条)。告知を受けた日から2週間以内に異議が出なければ、確定した審判と同じ効力を持ちます(同法279条・286条・287条)。
手続きの詳細は裁判所の「遺産分割調停」の案内でも確認できます。行き詰まったときの考え方は遺産分割協議がまとまらないときの進め方をご覧ください。
待っている間にできることと、注意したい期限
一人でもできる手続き
預貯金は、相続人が単独で一定額まで払戻しを受けられます(民法909条の2)。上限は「相続開始時の残高×1/3×法定相続分」で、1つの金融機関につき150万円までです。
例えば子2人が相続人で、ある銀行の残高が600万円なら、600万円×1/3×1/2=100万円です。払い戻した分は、その人が遺産の一部分割で取得したものとして扱われます。
不動産は、相続人申告登記(相続人であることを法務局に申し出る手続き)を一人でもできます。ただし果たせるのは申し出た本人の登記義務だけで、持分は登記されず、売却などには相続登記が必要です。
話合いが進まなくても進む期限
| 手続き(根拠) | 期限と起算点 | 期限までにすること |
|---|---|---|
| 相続税(相続税法27条1項) | 相続の開始を知った日の翌日から10か月以内 | 未分割でも申告・納税する。 |
| 相続登記(不動産登記法76条の2第1項) | 相続の開始と不動産の取得を知った日から3年以内 | 登記を申請するか、相続人申告登記をする。 |
| 10年ルール(民法904条の3) | 相続開始から10年 | 特別受益(生前贈与など)や寄与分(特別な貢献)を主張するなら、家庭裁判所に分割を請求する。 |
10年ルールの例外を受けるには、10年を過ぎる前に家庭裁判所へ遺産分割を請求する必要があり、手紙で協議を申し入れただけでは足りません。10年を過ぎても分割自体はできますが、原則として法定相続分(遺言の指定があれば指定相続分)が基準です。2023年4月1日より前に開始した相続には経過措置があります。
よくある質問
Q.返事がないので、法定相続分どおりに手続きを進めてもよいですか?
A.一人でできることと、できないことを分けて考えます。預貯金の払戻し制度(上限あり)や相続人申告登記は一人でも利用できます。一方、応じない相続人の分まで遺産の分け方を決めることはできず、他の相続人の持分を勝手に処分することもできません。全体を進めるには、調停などの手続きが必要です。
Q.調停を申し立てると、関係がさらに悪くならないでしょうか?
A.調停は、家庭裁判所で調停委員を交えて話し合う手続きで、相手を訴える裁判とは異なります。調停委員が時間を分けて当事者それぞれの話を聴くのが一般的で、直接言い合う場面を避けやすい面もあります。申し立てる前に「家庭裁判所で話し合いたい」と手紙で伝えておくと、相手の戸惑いを和らげられる場合があります。
Q.相続人の一人が遠方に住んでいて、裁判所に行けないと言っています。
A.出頭が難しい当事者は、事前に示された調停条項案を受諾する書面を提出できます。他の当事者が期日に受諾すれば、合意が成立したものとみなされます(家事事件手続法270条)。また、家庭裁判所が相当と認めるときは、電話会議やウェブ会議で期日に参加できることもあります(同法54条・258条1項)。なお、家事調停のオンライン申立ては、まだ始まっていません。
まとめ
- 話合いに応じない相続人を除いて、遺産分割協議を成立させることはできません。
- まずは手紙や資料の示し方、連絡する人を工夫します。内容証明郵便を送るだけでは、期限を守ることにはなりません。
- それでも応じなければ遺産分割調停を申し立て、不成立なら審判に移ります。
- 預貯金の払戻し制度や相続人申告登記は一人でも使えますが、効果には限りがあります。
- 相続税、相続登記、10年ルールの期限は、話合いが進まなくても進みます。
調停を考え始めたら、遺産分割のご相談や相続調停・審判・訴訟への対応をご覧ください。