遺産分割協議は、相続人全員が合意したときに成立します。進め方は、①遺言書の確認、②戸籍による相続人の確定、③財産と借金の調査、④分け方の話合い、⑤協議書の作成と名義変更、の順が基本です。話合いがまとまらないときは、家庭裁判所の遺産分割調停を利用できます。
借金が多く相続放棄を考える場合は、原則として、自分が相続人になったことを知った時から3か月以内に家庭裁判所での手続きが必要です。協議を始める前に、借金の有無を確認してください。
この記事で分かること
- 遺産分割協議の意味と、全員の参加が必要な理由。
- 協議の前に相続人と財産を調べる方法。
- 合意から名義変更までの5つの手順。
- 協議と並行して確認したい期限。
遺産分割協議とは
遺産分割協議とは、亡くなった方(被相続人)の遺産を、誰がどのように引き継ぐかを相続人全員で話し合って決めることです。
民法907条1項により、遺言で禁止されている場合などを除き、相続人は「いつでも」協議で遺産の全部または一部を分けられます。全員が納得すれば、法定相続分(民法が定める相続の割合)と違う分け方もできます。
ただし、一部の相続人を除いて決めた内容では、遺産分割協議は成立しません。
協議で分ける財産と、別に扱う財産
- 協議で分ける財産:不動産や預貯金などです。普通預金・通常貯金・定期貯金は、相続開始と同時に当然には分割されず、遺産分割の対象になります(最高裁判所 平成28年12月19日大法廷決定)。
- 生命保険金:受取人を「相続人」と指定した保険金を、相続人固有の財産とした判例があります(最高裁判所 昭和40年2月2日判決)。契約内容で扱いが変わります。
- お墓や仏壇:祭祀を主宰する人が、遺産分割とは別に引き継ぎます(民法897条)。
- 借金:法定相続分に応じて当然に分かれ、原則として遺産分割の対象にならないと家庭裁判所は説明しています。相続人間で負担する人を決めても、当然には債権者を拘束しません。
協議に参加する相続人と、家庭裁判所の手続きが必要な場合
配偶者は常に相続人で、ほかは子、父母などの直系尊属、兄弟姉妹の順に相続人になります(民法887条・889条・890条)。相続放棄をした人は、協議に加わりません(民法939条)。
未成年の相続人がいる場合
例えば父が亡くなり、母と未成年の子が相続人になると、両者の利益がぶつかる「利益相反」になり、母は子を代理して協議できません。子の住所地の家庭裁判所に特別代理人の選任を申し立てます(民法826条)。費用は子1人につき収入印紙800円と郵便切手です(2026年9月時点)。
判断能力が不十分な相続人がいる場合
内容を理解して判断する能力(意思能力)がない状態で行った協議は、無効です(民法3条の2)。家族が代わりに署名することはできず、家庭裁判所に成年後見人などの選任を申し立てる必要があります。
連絡が取れない相続人がいる場合
住所を調べても所在が分からない相続人がいるときは、不在者財産管理人の選任と、協議についての家庭裁判所の許可が必要です(民法25条・28条)。詳しくは連絡が取れない相続人がいる場合の手続きをご覧ください。
協議の前に集めたい資料と確認すること
- 遺言書:遺言の有無と内容を確認します。遺言で取得者が決まった財産は、協議の対象外になることがあります。
- 戸籍:被相続人の出生から死亡までの戸籍と相続人全員の戸籍で、相続人を確定します。
- 通帳・残高証明書:相続開始時の預貯金の残高を確認します。
- 名寄帳・登記事項証明書:不動産の所在や名義を確認します。
- 契約書・督促状・保険証券:借金の有無や、生命保険の受取人を確認します。
戸籍は、本籍地以外の市区町村の窓口でも請求できます(2024年3月からの広域交付)。ただし、兄弟姉妹の戸籍や、電子化されていない一部の戸籍は対象外です。郵送や代理人による請求もできません。
戸籍一式と相続関係の一覧図を法務局に出せば、「法定相続情報一覧図の写し」を無料で受け取れます。登記や預金の手続きに使えます。
不動産は、2026年2月に始まった「所有不動産記録証明書」で、亡くなった方名義の不動産を一覧にできます。手数料は書面で検索条件1件につき1,600円です(2026年9月時点)。ただし、登記上の住所などが違うと漏れることがあります。
市区町村ごとの名寄帳(その市区町村内の不動産の一覧)も確認しましょう。調査に不安があれば相続人・相続財産調査のご相談もご利用ください。
遺産分割協議を合意まで進める5つの手順
- 遺言書を確認する:遺言の有無と内容を確かめます。
- 相続人を確定する:戸籍を集め、相続人全員を確認します。
- 財産と借金を調べる:一覧表(財産目録)にまとめ、全員で共有します。
- 分け方を話し合う:法定相続分を目安に、誰が何を取得するかを決めます。
- 協議書を作り、名義変更をする:遺産分割協議書に全員が署名して実印を押し、法務局で相続登記、金融機関で預金の手続きをします。
まとまらない場合は、相手方のうち1人の住所地の家庭裁判所などに遺産分割調停を申し立てられます。費用は収入印紙1,200円(被相続人1人につき)と郵便切手です(2026年9月時点)。
調停でもまとまらなければ審判に移り、家庭裁判所が分け方を判断します。詳しくは遺産分割協議がまとまらないときの進め方をご覧ください。
協議と並行して確認したい期限
| 手続き(根拠) | 期限と起算点 | すること |
|---|---|---|
| 相続放棄(民法915条1項) | 自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内 | 家庭裁判所に申述する。 |
| 準確定申告(所得税法124条・125条) | 相続の開始を知った日の翌日から4か月以内 | 税務署に申告する。 |
| 相続税(相続税法27条1項) | 相続の開始を知った日の翌日から10か月以内 | 分割がまとまらなくても期限は延びないため、申告・納税する。 |
| 相続登記(不動産登記法76条の2第1項) | 相続の開始と不動産の取得を知った日から3年以内 | 相続登記か、相続人申告登記をする。 |
| 10年ルール(民法904条の3) | 相続開始から10年 | 特別受益(生前贈与など)や寄与分(特別な貢献)を主張するなら、期限前に家庭裁判所へ分割を請求する。 |
未分割のまま申告すると配偶者の税額軽減などを使えないため、「申告期限後3年以内の分割見込書」の提出を税理士に相談しましょう。
相続人申告登記(相続人であることを法務局に申し出る手続き)で果たせるのは、申出人本人の義務だけです。売却などには相続登記が必要です。
10年を過ぎても分割自体はできますが、原則として法定相続分(遺言で指定があれば指定相続分)が基準になります。相続登記の義務(2024年4月施行)と10年ルール(2023年4月施行)は、施行前に始まった相続にも経過措置付きで適用されます。全体の流れは相続が発生したら最初に何をすべきかをご覧ください。
よくある質問
Q.相続人が遠方に住んでいて、集まるのが難しいのですが?
A.全員で集まらなくても協議はできます。同じ内容の協議書に各自が署名・押印して全員分をそろえる方法も、法務局の案内で差し支えないとされています。財産の一覧も添えて送りましょう。
Q.協議の後に、新しい財産が見つかったらどうなりますか?
A.見つかった財産について、改めて相続人全員で協議するのが基本です。重要な財産が漏れていた場合は、協議のやり直しが問題になることもあるので、専門家に相談してください。
Q.認知症と診断された親が相続人です。協議はできないのでしょうか?
A.診断だけで協議ができないと決まるわけではなく、意思能力は行為ごとに判断されます。成年後見人が選ばれた場合、現在の制度では、判断能力が回復しない限り、遺産分割の後も後見が続きます。制度の見直し法は2026年6月に成立しましたが、施行前です。
まとめ
- 遺産分割協議は相続人全員の合意で成立し、一部の相続人を除いて進めることはできません。
- 遺言・相続人・財産を確認してから話し合い、協議書を作って名義変更をします。
- 未成年者、判断能力が不十分な方、所在不明の方がいると、家庭裁判所の手続きが必要になることがあります。
- 相続放棄、相続税、相続登記などの期限は、起算点を確かめて協議と並行して準備します。
まずは戸籍と財産の資料を集め、全体像を確認しましょう。進め方に迷うときは遺産分割のご相談をご利用ください。